実は2024年問題よりも深刻?な2030年問題を解説します。
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先日、こちらの物流コラムで「2024年問題」に絡めて、「物流業界が直面している課題とは?解決方法や物流総合効率化法について解説」を解説させて頂きました。
ところが、さらに2030年には日本社会全体で少子高齢化が進むことにより、労働者人口の減少が待ち構えていることがわかっています。
今回は、2030年までに想定される人手不足の状況を、現在の求人の有効求人倍率や最低賃金を元に想定し解説させていただきました。
特に、倉庫業界に絞って解説させて頂きましたが、
【人手不足に悩まれている方】や【自社物流を行われている会社の方】などもよろしければご参考として頂き、今から対策を進めて頂ければと思います。
目次
1.2030年問題とは
2.倉庫内作業の人手不足の状況
3.上昇し続ける時給
4.扶養控除内の働き方と勤務時間
5.採用コストの増大
6.管理工数の増大
7.物流の効率化と自動化
8.物流網にも影響
9.まとめ 自社物流でも同じ課題が
1.2030年問題とは
少子高齢化の進む日本で2030年に懸念される社会問題についての総称が「2030年問題」です。2030年には日本国民の3人に1人が65歳以上の高齢者となり、かつ少子化が進み、労働者人口の減少が進むことによって雇用、物流、医療等に大きな影響が予想されています。
労働者人口は2023年時点の6,689万人から、2030年には6,429万人となり、必要な人材に対し400万人から800万人ほど不足することが予想されています。
また、2022年の出生数は初めて80万人を切っており、少子化に歯止めがきかない状況となっています。2030年問題は不可避の課題となっています。
そういった状況のなかで現在から2030年までに想定される倉庫業の状況についてご説明をしていきます。
2.倉庫内作業の人手不足の状況
「一般職業紹介状況(令和3年12月分及び令和3年分)について」では全体の有効求人倍率は1.14倍となっていますが、倉庫内職種の有効求人倍率は下記のようになっています。
ピッキング作業員:1.31倍
積卸作業員:5.45倍
梱包作業員:2.27倍
フォークリフト運転作業員:0.68倍
ピッキング作業員、積卸作業員、梱包作業員のような、倉庫内作業の職種が平均求人倍率以上の倍率となっており需要に対して人手が不足していることがわかります。
反面、フォークリフト運転作業員のような、有資格の仕事は有効求人倍率が良い傾向にあります。
求人媒体をみると関東圏ではピッキング作業で1,200円台~1,300円台の求人が掲載されており各社が求人に苦戦していることが伺えます。
体を動かす仕事であるピッキング作業員、積卸作業員、梱包作業員は年配の方が避ける傾向にあり、少子高齢化の影響で今後さらに有効求人倍率が悪化することが予想されます。最低賃金の上昇も考慮すると、2030年には時給1,500円~2,000円台の求人が掲載されていても有効求人倍率は改善されないという可能性も考えられます。
ただ、これはどの業界においても起こりえることで、物流業界のみの課題ではありません。
参考資料
厚生労働省 職業安定業務統計
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1b.html
職業情報提供サイト(日本版O-NET)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User
3.上昇し続ける時給
最低賃金は2013年の全国平均764円から2022年には961円と197円増加しており、上昇率は平均3%で推移しています。今後も同様の上昇率で推移した場合2030年には1,225円になる可能性があります。
これは次項で説明しますが、扶養控除内で働く方にも関わってきます。
参考資料
厚生労働省 令和4年度地域別最低賃金改定状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
4.扶養控除内の働き方と勤務時間
倉庫内作業では、扶養控除内で働かれる方も幅広く活躍されています。子育ての合間に扶養控除内で勤務(年収103万~130万)される方が多く、特に年収103万以内で勤務される方が大多数となっています。
しかし、そういった方の勤務時間が時給の上昇によって年々短くなっています。勤務時間の短縮の要因は、毎年、最低賃金が上がっているのに対して、控除制度の収入制限が更新されていないためです。
2013年には月平均90.6時間程度の勤務だったのが、2022年では月平均79.6時間程度となっており。勤務時間が10時間ほど減っています。
先項であげた最低賃金の上昇率3%を踏まえて、現状の扶養控除の収入制限が現行のままだとしたら、2030年には月平均62.4時間になる可能性があります。
この問題の対策としては、従業員の人数を増やすか業務の効率化を進める必要がありますが、労働人口の減少により、従業員の人数を増やすのは今以上に苦戦することになります。
子育て世代をターゲットにした、フレキシブルなシフト制の導入や労働環境の改善などの、時給以外での働きやすい職場作りも必要になります。
参考資料
厚生労働省 毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html
5.採用コストの増大
倉庫業は労働集約型の業種で、人手は必要不可欠です。今後、労働者人口が減少していく中で人員を確保していくには、継続的に従業員を募集していく必要があります。
現在は無料で求人を掲載する方法もありますが、そういった媒体は求人を掲載してもすぐに他の求人に埋もれてしまう傾向にあり、求人サイトや紙面で目立つようにするには上位のプランで掲載する必要があります。
それによって求人掲載費のような外部コストの増加や、長期に渡って求人を掲載することで面接や電話応対などの対応で内部コストがともに増加していくことが予想されます。
6.管理工数の増大
2030年には前述のような要因で人件費の高騰、人手不足の状況になることが予想できますが、求人に力を入れて従業員を確保出来たとしても問題があります。それは従業員の管理です。
パート従業員の2030年の勤務時間は2022年より22%減少した状況になります。つまり月5人で行っていた業務を行うには6人必要になります。単純に従業員の人数が増えるだけでなく、各々の勤務時間が減ることによって業務習熟が遅れ、それによる作業スピードの低下が予想されます。
倉庫業の業務は管理者がいて、従業員の習熟を把握し、業務に応じて適切な配置をしますが、勤務時間の短縮による従業員の増員により、管理者の増員が必要になる場合があります。
「統制範囲の原則」という原則があります。この原則は1名の管理者が管理できる人数には限界があり、それを超えると管理効率が低下するという原則です。管理者1名が統制できる人数は一般的に5~10名といわれており、業務を簡素化したライン作業でも20~30名と言われています。この原則に当てはめると、会社の規模にもよりますが管理者を増員しないと作業効率の低下を招きます。
7.物流の効率化と自動化
従業員の増員の他には業務を効率化することで労働者人口の減少に対応する方法があります。倉庫内作業の効率化には整理整頓、業務の標準化、作業動線の短縮、マテハン機器、保管機器の導入など様々あります。
整理整頓、業務の標準化は物の配置、手順を明確にすることで作業者を迷わなくさせることで効率化します。作業動線の短縮は倉庫内のレイアウトを見直して移動距離を短くすることで効率化します。マテハン機器、保管機器の導入は保管商品の特性や業務にあわせてフォークリフト、コンベア、ラック、ネステナーなどの機器を導入することで効率化をはかります。
これらは倉庫業で、すでに行われている効率化の手段ですが、継続して効率化を行っていく必要があります。
また、近年は自動化が推進され物流機器の会社から様々な自動化のシステム、マテハンが発表されています。
例としては下記があります。
自動倉庫システム
入荷業務から出荷業務までの一連の業務を自動化するシステムです。商品を倉庫内を移動する棚(棚以外にパレット型、コンテナ型等複数種類あり)に収納し、システム制御で業務に応じて倉庫内を移動する自動搬送ロボットと連携したシステムです。
自動搬送ロボット
システム制御により、業務に応じて倉庫内を移動し、ピッキング、仕分けや運搬などを行います。このロボットによって作業者の動きが減り、負担が軽減されます。
ピッキングシステム
様々な種類があります。自動搬送ロボットでピッキング作業者の場所に商品を持ってくるタイプや、保管場所でピッキング作業者にハンディターミナルやデジタル表示、音でピッキング商品を知らせるタイプなど様々なタイプがあります。
これらの自動化システム、マテハンは効率化を促進しますが、WMS(倉庫管理システム)との連携、またはシステムの更新の必要があります。また、導入にはそれなりの初期費用や社内教育、倉庫内レイアウトの変更等のコストが発生します。倉庫業の会社の規模によりますが、複数のお客様の商品をお預かりしているので、導入するにあたってのメリットはコストに見合うでしょう。
8.物流網にも影響
2030年には物流需要が27.6億トンと推定されていますが、ドライバー不足と2024年問題の影響を合わせると輸送能力が9.4億トン分(34.1%)不足すると予測されています。このことから宅配便会社、運送会社ともに、現在の送料から値上げをすることが予測できます。
倉庫会社は毎日、数百個から数千個の出荷を行っているためスケールメリットがありますが、反面、自社物流で毎日数十箱の出荷では、あまりスケールメリットはありません。
参考資料
経済産業省 持続可能な物流の実現に向けた検討会 2022年11月11日 第3回
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/003.html
9.まとめ 自社物流でも同じ課題が
これまで2030年問題を倉庫側の視点から解説してきましたが、自社物流業務の会社でも課題は同じです。また、倉庫業でなくても労働集約型の業務や人手を多く用いている業務は、同じ課題に直面する可能性があります。
倉庫内作業を専門としている倉庫会社では、採用コストや業務の効率化にかかるコストを、複数のお客様の荷物をお預かりしていることによるスケールメリットで軽減することができます。しかし、自社物流を少人数で行われている場合はダイレクトに影響を受けることになります。
もちろん自社物流にはメリットがあります。自社物流は社内で一貫した体制を取れるので、各部門での情報共有がしやすく、業務改善がしやすく、お客様のニーズを把握しやすいなどです。
しかし、将来の人手不足が不可避の現状では、自社物流のメリット・デメリットと、物流会社に委託した場合のメリット・デメリットと比較検討してみるのもいいのではないででしょうか。
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この記事の執筆者:
株式会社ワタナベ流通
営業部 田村 実